のどのイガイガ・味覚障害・嗅覚障害・正しい鼻のかみ方

咽喉頭食道異常感症という病気

この記事はルナメディカル新聞社発行の情報紙『るなネット』に掲載された記事を再編集したものです。
咳

喉(のど)に何かあるような気がする。喉に痰がひっかかって切れない。痰が切れず、咳払いを四六時中している。今あげました症状に心当たりの方は意外と多いのではないでしょうか?
 一昔前、テレビのCMで「エヘンと言えば龍角散」というのがありました。
「エヘン虫」なんて言い方もありました(先生、年がわかりますよ!
笑)。まさにこれらの症状はエヘン虫が喉にいる状態と言えます。こういう症状を総称して咽喉頭食道異常感症と呼んでいます。これはいろいろな原因で起こります。

患者さんに聞いてみますと、その症状が起こってきた少し前「のど風邪をひいていた」という場合が結構あります。この時、風邪の炎症で舌の付け根のところにある扁桃腺の親戚のような物と喉の蓋(ふた/気管に食べ物が入らないように蓋がある)が普通わずかに離れているのに、のど風邪のためにその扁桃腺の親戚が腫れて喉の蓋と触れてしまうのです。それですごく気持ち悪く、始終何か喉にあるように感じるのです。

患者さんを診ていて一番多いのはこの場合だと思います。 ここで大切なことが2つあります。
1つは「エヘン、エヘン」と咳払いをやりたいだけしますと、症状はひどくなるだけで絶対治らないということです。なぜなら「エヘン」とするたびにかなり強い空気の流れがジェットのように喉に流れ、その影響で喉の粘膜の腫れ(炎症)は一層ひどくなり、全く逆効果だからです。私は喉の炎症を治すうがい薬と内服薬をお出しして、喉と鼻のネブライザーが効果が高いのでしばらく通院してもらうようにしています。症状がひどい時にはステロイド薬を投与することもあります。
 もう一つ大切なことは、そんな症状の中に頻度は低いのですが、喉の癌(がん)ができている場合があるということです。ですから、ずっと龍角散を飲んで様子を見ているのはお勧めではありません。必ず一度、耳鼻咽喉科で診てもらって下さい。喉の内視鏡で癌があるかどうかその場でわかります。内視鏡の原理は胃カメラと同じですが、胃カメラよりずっと細いのでほとんど検査の苦しさや痛みはありません。 また、喉に鼻汁が落ちていて(後鼻漏)、その為に喉が気持ち悪く、アレルギー性鼻炎や蓄膿症が見つかったということもあります。
いずれにせよ「エヘン虫」で悩んでおられたら、耳鼻咽喉科専門医に相談されるとよいと思います。

「先生、においがわからないんです!」

「オレンジジュースって、こんなに匂い(におい)のするものだったんだ!」とは、蓄膿症の手術を受けた某君がお見舞いにもらったオレンジジュースを飲んだ時に言った言葉です。ということで、今回は嗅覚障害のお話です。
オレンジジュース

匂い(におい)は、空気にのって移動して、鼻の奥の方まで入ってきます。鼻の奥の方に匂いを感じるセンサーがあって、そこで匂いを感じています。ですから、匂いがわからないというのは、①アレルギー性鼻炎や蓄膿症で鼻が詰まっていて、空気が入らないので匂いを感じない場合、②匂いを感じるセンサー自体が壊れている場合、③この①と②の両方の場合、があります。
私共のクリニックに来られる「匂いがしない」患者さんのほとんどは、上記①の場合です。急性や慢性の蓄膿症のために汚い鼻汁が匂いの通り道をふさいでしまいます。治療法は、とにかく内服薬やネブライザーなどの蓄膿症の治療をすることです。それと平行して、働きの悪くなった匂いのセンサーを刺激する目的で、仰向けになっていただいてリンデロン液を鼻の中に滴下していただきます。また匂いのセンサー自体も鼻の中でどんどん新品のものと入れ替わっており、それが作られるときに亜鉛が必要であると考えられていますので、亜鉛を含む薬を飲んでいただきます。
この一連の治療でほとんどの場合、匂いが戻ってきます。ただここで少し良くなっても、自己判断で治療を中止してしまうと、再発してきます。もともと蓄膿症は治りにくい病気なのですから根気強く治療を続けることが大切です。また重症の蓄膿症で鼻茸が大きい場合などは、手術が必要なこともあります。
匂いがしなくなって長い間(例えば、2年とか)ほっておくと、どうなるのでしょうか?匂いのセンサーが「もう働かなくていいのかな?」と勘違いしてしまうのです。自動車や腕時計を何年も使わないで、ほっておくと動かなくなるのと似ています。
匂いは五感のひとつであり、匂いを感じなくなるとやがて食事の味もわからなくなります。大変辛いことです。「匂いがわかりにくい。」と感じたら早めの耳鼻科受診をお勧めします。

味のしない生活。こんな辛いことも、ない。

味覚障害は、高齢者に起こりやすいと言われていますが、最近では、若い人たちにも増えています。コンビニ弁当で食べたい物だけを食べ、空腹を紛らわす。やせるため、過激なダイエットをする。こんな生活が、味覚障害につながっていく事があります。
コーヒー

味覚障害の患者さんを診る場合、まず食事による影響を考えます。偏った食事のために、体を維持していくために絶対必要な微量元素が体の中で不足してしまいます。そのため、舌の上にある味蕾(みらい)と呼ばれる味を感じるセンサーを作れなくなってしまいます。味蕾は、自分が赤ん坊として生まれた時の味蕾をそのまま使っているのではなく、絶えず新しい味蕾が作られ、それを使っています。微量元素がそのセンサーを作るのに必要なのです。
もうひとつ大事なことは毎日服用している薬です。薬の中には上記の微量元素を体の中から無理やり減らしてしまうものがあります。それがどの薬か、わかれば苦労はないのですが、多くの場合はわかりません。ですから、どうしても中止できない薬以外は、すべて薬の服用をやめてみます。ここで、また見逃してはいけないのが、いわゆるサプリメントです。昨今の健康ブームでサプリをいろいろ飲んでおられる方も多いと思いますが、サプリも列記とした薬です。先日も、味覚障害の患者さんで、服用しておられるサプリをすべてやめてもらい治療をしたところ、症状が治った患者さんがおられました。
味覚障害は、単に味を感じなくなるだけではなく、「舌がピリピリする。」といった舌炎症状の場合もあります。また味の半分はいわゆる風味でして、例えばコーヒーのいい香りをにおってコーヒーの微妙な味を感じるわけです。つまり、蓄膿症など鼻の病気のために味を感じにくくなっている可能性もありますので、味覚障害の場合、鼻の病気のチェックは不可欠と言えます。
味覚障害は6ヵ月以上放置すると治療の成功率が悪くなりますので、早めの耳鼻科受診をお勧めします。

正しい鼻のかみ方。

①鼻は左右片方づつ、やさしく、ゆっくりとかむ。
 決して、「ブー」と、勢いよく、強くかまない。
②(幼稚園児のように)、鼻をかまないで、吸ったらダメ。

アレルギー

①と②二つの注意点は、いつも口を酸っぱくして、大人も子供も患者さんに申し上げています。それは、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、蓄膿症といった鼻の病気と耳のトラブルは密接な関係があるからです。
花粉症のミズバナにせよ、蓄膿症の緑バナにせよ、「ブー」と勢いよくかみたくなりますよネ。この方が、粘っこい鼻汁も実際たくさん出てくれますし、ハナをしっかりかんだという充実感を感じます。しかし、こういうハナのかみ方をしていますと、鼻の病気は治っても耳の病気、つまり耳管狭窄症や滲出性中耳炎になってしまいます。
耳と鼻は顔の内側で耳管という細い管(くだ)でつながっています(図を見て下さい)。この耳管は肉でできた細いトンネルです。そのトンネルの出口が鼻の中の奥の方にあります。ですから、そのトンネルの出口あたりが、鼻汁でヌルヌルになっているところへ、勢いよく「ブー」と鼻をかみますと、そのヌルヌルの鼻汁も手伝って簡単に耳管が詰まってしまうのです。
もし、詰まってしまったら、通気療法といって、滲出液が溜まって詰まった耳管に空気を通す治療をします。鼻水と炎症を抑えるお薬を飲んでいただき、子供なら「ラッパ」と言ってもらったその瞬間にゴムまりのような道具で空気を鼻の穴から押し込みます(ポリッツェル法)。大人なら、鉄の管で直接耳管に空気を押し込みます(カテーテル法)。自分で耳抜きをするのも立派な治療法です。しかし、緑の鼻汁が出ているときは、急性中耳炎になってしまうので注意が必要です。
症状は、耳が詰まった感じ、耳に水が入った感じ、聞こえにくいなどです。治療を始めるのが早いと、1~2週間で治りますが、治療が遅れれると治るまで数ヶ月かかることもあります。
子供さんは鼻をかまないで、吸ってしまうので、同じ様なしくみで耳管が詰まりやすく、また大人で鼻を吸う癖のある人も同様です。
「耳が詰まった感じ」がしたら、早めの耳鼻科受診をお勧めします。

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